第125章

以前、山本翔一との一件が原因で、田中太郎との間に些細な誤解が生じてしまった。彼に対してはずっと負い目を感じていたものの、自分から連絡を取る勇気が出ずにいたのだ。ところが——

今日、思いがけず田中太郎の方から声をかけられた。私は一瞬呆気にとられたが、すぐに顔に少しばかり気楽な笑みを浮かべ、軽やかな足取りで挨拶に向かう。

「あら、田中刑事。貴方のような多忙な方に会えるなんて珍しいわね」

田中太郎は帽子を脱いで頭をかくと、困ったような顔で言った。

「冷かさないでくれよ。こっちは毎日、終わりのない事件に追われてるんだ」

そう言って眉をひそめる彼の瞳には、隠しきれない疲労の色が滲んでいる。

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