第75章

佐藤美咲の敵意に満ちた眼差しに耐えきれず、私はただその場を立ち去りたかった。無用な衝突は避けたかったのだ。夕食後、隙を見てダイニングを抜け出し、テラスへと向かう。今夜は月が美しい。降り注ぐ月光は、まるで私を包む一筋の薄いベールのようだった。

「やっぱり静香さんは楽しむ術を心得ているわね。こんなに心地よい場所を見つけるなんて」

デッキチェアに身を預けて物思いに耽っていた私の背後から、佐藤美咲の皮肉めいた声が聞こえてきた。

避けたいものほど向こうからやってくる——まさにその通りだ。振り返ると、整ってはいるが侮蔑の色を隠そうともしない佐藤美咲の顔があった。

「佐藤美咲、いい加減にして。山本...

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