第84章

「一緒に帰らないか?」

彼は探るように私に尋ねた。

私は寛大さを装い、手をひらひらと振ってみせる。

「あなた、美咲さんが用事があるんでしょう? 急いで戻ってあげて。せっかくこんな高価な部屋なんだもの、私はここでゆっくり楽しませてもらうわ」

私が機嫌の良さそうな振る舞いを続け、その意志が固いとわかると、山本翔一は一つ頷き、背を向けて去っていった。

私はゆっくりと身に纏った衣類を脱ぎ捨て、浴槽へと身を沈める。温かい湯が肌の一寸一寸を包み込み、まるで優しい抱擁のようだ。酔いも水流とともに静かに消えていくような気がする。

立ち込める湯気が薄い紗(うすもの)のように部屋の隅々を覆...

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