第85章

昨日、山本翔一は今朝会社に行けば田中秘書と法律事務所の譲渡契約を結べると言っていたけれど、私はあえて急ごうとは思わなかった。昨夜は平沢雪乃もかなり飲んでいたし、この時間になってもスマホを見ていないのは、まだ酒が抜けていないからだろう。私は彼女に電話をかけた。

幸い、平沢雪乃はすぐに電話に出た。その声は気だるげだ。

「もしもしぃ、静香? なんでそんな早起きなのよぉ。日差しもいい感じだし、もうちょっと寝てればいいのに」

私はスマホの画面を指先で軽く叩く。

「聞いて。私、ついに『東英法律事務所』を手に入れたわよ。今日、契約書にサインできるわ!」

「えっ、もう手に入れたの!?」

平沢雪乃...

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