第89章

山本翔一が佐藤美咲の手を引き、主寝室へと歩いていく。その光景を見つめる私の心は震え、堪えきれない涙が眼窩で揺れていた。この男は、私に一度希望を与えては、すぐに失望の淵へと突き落とす。その繰り返しだ。私はもう、愛というものに対して迷いしか感じられなくなっていた。

私は気を取り直した。どうせ、遅かれ早かれこの家を出ていく身だ。これ以上、自分を惨めな気持ちにさせる必要はない。私は心を整え、客用寝室へと戻った。広大な山本家の別荘の中で、私が心を許せるのはこの狭い空間だけ。今頃、山本翔一は佐藤美咲と睦み合っているのだろう。誰も邪魔しに来ないこの状況は、今の私にとってむしろ好都合だった。

シャワーを...

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