第91章

高橋教授の提案は、私にとって悪くない話だ。弁護士業界において、小林一郎という人物は確かに頼りになる。彼の名義で複数の法律事務所を抱えているし、東英法律事務所こそ青木易揚の出資によるものだが、それ以外は実質的に小林一郎個人の持ち物で、全国各地に点在している。もし私が東英を離れたとしても、彼なら他の事務所に席を用意してくれるかもしれない。たとえS市を離れることになっても構わない。どこへでも行くつもりだ。母が亡くなってからというもの、私には帰るべき家などないのだから、どこへ行こうと同じことだ。小林一郎に助けを求めれば、どうにかしてくれるだろうか。

だが、今はそんなことを考えている余裕はない。松本...

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