第96章

書類に没頭していて、時間の経過に気づかなかった。

どれくらい経っただろうか。山本翔一が静かにドアを開けた。

「静香、話がある」

私は椅子の背もたれに身体を預けた。

「いいわよ、何の話?」

書斎のソファを顎でしゃくる。翔一は遠慮なく腰を下ろしたが、その可愛らしいピンクのソファは、彼の長い脚のせいでまるで子供用の椅子のように見えた。思わず口元が緩む。しまった、と思い直し、慌てて表情を引き締め、真面目な顔を作る。

「静香、この裁判、勝ちたいんだろ?」

その口調には、微かな侮蔑の色が混じっていた。

私は居住まいを正した。

「勝つか負けるか、それを決めるのは私でもあなたでもないわ。裁...

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