第5章 私を無理やり海外に送らせないで！
水原茜は心の中でぼやいた。今日は病室が市場になったのかと思うほど、人の出入りが激しい。
目を上げると、すぐに表情が曇った。
病室の入り口に現れたのは、水原昇栄と山田華、そして水原暖だった。
水原暖を見た途端、昨日の婚約披露宴での出来事が脳裏によみがえった。
自分の婚約者が、生死の境目で自分を見捨て、最も嫌いな義妹を救いに行ったのだ。
水原暖がベッドの側に寄り、心配そうな素振りで尋ねた。「お姉さん、大丈夫？昨日はひどい怪我で意識不明だったって聞いたわ」
そう言いながら、存在しない涙を拭うしぐさまでした。
水原茜は吐き気を覚えるほど気持ち悪くなり、聞こえないふりをして三人の存在を完全に無視した。
布団を引き寄せ、横向きになって目を閉じた。
水原昇栄は布団を乱暴に引き剥がし、怒鳴り始めた。「水原茜！躾はどうした？！妹が心配して来てくれているのに、その態度は何だ？！」
水原茜は窓の外を見つめるだけだった。
継母の山田華は水原茜の冷淡な様子を一瞥し、急いで「昇栄、まだ子供なのよ。怒らないで。体に良くないわ。本題に入りましょう」と言った。
水原昇栄は両手を腰に当て、水原茜を睨みつけた。
「子供だと？もう26歳だぞ。何が子供だ？それに既に母親じゃないか！」
水原昇栄は病室に長居する気もなかった。
水原茜の後頭部に向かって命令するように言った。「昨日の件で分かっただろう。太田文一の心の中で一番大切なのは暖なんだ。どうせ結婚も成立してないんだから、お前から声明を出して太田文一との婚約を解消しろ。暖暖を文一の嫁にやるんだ」
水原茜はそれを聞いて振り向いた。
笑みを浮かべた。呆れ果てて笑うしかなかった。
なんという身勝手な要求だろう。
この一家がどこまで厚かましくなれるのか、もはや想像もつかない。
娘が不倫相手として人の恋愛関係に割り込み、親がそれを後押しする。
そして当事者の前で、厚顔無恥にも要求してくる。
水原茜は枕を背中に当て、半身を起こして腕を組み、冷ややかに眺めた。
彼女は斜めから水原昇栄を見つめ、「何の権利があって？」と言った。
水原昇栄は平然と、当然のように言った。「あの二人こそが本当の愛し合う仲だ。お前みたいな男に寝取られて捨てられた不埒な女が、若くして未婚の母になって、当時は北町中の知るところだ。お前だって分かっているはずだ！水原家の名声もお前のせいで台無しだ！太田家は北町では顔の立つ家柄だぞ。お前が太田家に入れると思っているのか？あの家が私生活の乱れた評判の悪い女を太田文一の嫁に認めるとでも？！優しく言ってやっているんだ、面子を立ててやっているんだ。分からず屋になるな！」
十八歳の時、未婚の母となった水原茜は北町最大の笑い者となり、人々の噂の種となった。
水原昇栄は彼女の生死など構わず、容赦なく海外に追いやり、7年もの間一度も気にかけることなく、異国の地で一人生きていくままにした。
今この瞬間も、火災から九死に一生を得た彼女に、一片の心配も示さない。
それどころか、厚かましくも愛娘の水原暖のために取り持ちに来て、婚約者を譲れというのか？！
厚かましい人間は見てきたが、ここまで徹底的な厚かましさは見たことがない！
水原茜は様々な表情を浮かべる三人を一瞥し、冷たく言った。「あやれやれ、なたたち母娘、不倫相手になるのも遺伝なのね！私が水原家の名声を汚したって？水原家に何の名声があったっていうの？
母さんの葬儀が終わったばかりなのに、すぐに不倫相手を迎え入れて、笑えるのは、その不倫相手の産んだ娘が私より半年しか違わないってこと。水原昇栄、母に代わって聞きたいわ。母が私を必死で身籠っていた時、あなたは何をしていたの？品行方正じゃないって言うなら、北町で誰があなたに勝てるっていうの？！」
水原昇栄は激怒し、水原茜に平手打ちを食らわせようと体を翻し、「水原茜……」と叫んだ。
水原暖と山田華母娘の表情は険しくなっていた。
水原茜は頭がまだ少しぼんやりしており、この連中と言い争う気力もなかった。「太田家が私を迎え入れるかどうか、私を嫁として認めるかどうかは、太田文一が直接私に言いに来ればいい。他人のあなたがとやかく言う立場じゃないでしょう！今すぐ出て行かないなら警察を呼びますよ！どうせ騒ぎになっても、恥をかくのは私じゃないわ！」
この時、病室の廊下には既に物珍しそうに見物人が集まっていた。
皆がひそひそ話をし、三人を指さして噂し合っていた。
水原昇栄は水原茜のことをよく知っていた。彼女は母親と同じで、一見大人しそうに見えるが、一度怒らせると、その骨の髄まで染み付いた強さと気性の激しさは誰にも太刀打ちできないことを。
水原昇栄は廊下に増える人々を見て、水原家の体面も考え、「お前！また海外追放にするぞ！」という言葉を残して、罵り言葉を吐きながら立ち去った。
