第5章
「お母さん、私、もう決めたから」
由梨は仮住まいのアパートの窓辺に立ち、スマホを耳に当てていた。眼下には東京の夜景が広がり、煌めく灯りは彼女が過ごした過去六年の思い出のように、明るくもどこか遠い。
電話の向こうで母は深くため息をついたが、意外にもそれ以上の説得はしてこなかった。
「あなたくらいの年頃になると、相手を探すのも簡単じゃないわ」母の声は少し和らいでいた。「でも、価値のない人と一緒にいるくらいなら、一人の方がずっといいのかもしれないわね」
由梨はわずかに虚を突かれた。母がこれほどあっさりと引き下がるとは思ってもみなかったからだ。もしかしたら、幾度となくかけた深夜の電...
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