第8章 家庭暴力を受けて入院
そう言うと、彼は天樹夢子が押し返そうとした両手を掴み、ベッドのヘッドボードに押さえつけた。
天樹夢子:「いいわよ。じゃあ、やらない方が孫の代まで笑い者ね」
結局、二人の攻防の末、天樹夢子は陸川北斗が本気で自分を犯そうとしていることに気づいた。彼女は陸川北斗が不意を突かれた隙に、ベッドサイドテーブルの置物を掴み、容赦なく陸川北斗の頭に叩きつけた。
「天樹夢子」
陸川北斗は怒鳴り声を上げ、手を上げて額を拭うと、手のひらは血まみれだった。
その時、天樹夢子は平然と置物をベッドサイドテーブルに放り投げ、手を叩いた。
「忠告はしたわよ」
寝るなら寝る。でも、手を変え品を変え弄ぼうだなんて、考えないでほしい。
……陸川北斗。
——
「北斗兄さん、出世したじゃないか! まさか夢子にDVされて病院送りになるとはな」
病院にて。
白上流は陸川北斗の付き添いで傷の手当てに来ていた。額に包帯を巻かれた彼を見て、腹がよじれるほど笑っていた。
やっぱり夢子はすごい。小さい頃から殴られる一方だった自分たちとは違う。
陸川北斗が冷たい視線を投げかけると、白上流はすぐに口を閉じて黙る仕草をしたが、その顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
車で陸川北斗を送り届ける道中も、白上流は陸川北斗を見るたびに笑い出した。
その時、陸川北斗が横目で尋ねた。
「天樹夢子は嫉妬したのか?」
白上流:「見え見えじゃないか。じゃなきゃあんたを病院送りにするわけないだろ。北斗兄さん、夢子はいい子だよ。もっと大切にしてやれ」
天樹夢子は白上流より少し年上だが、陸川北斗との関係や、さっぱりした性格もあって、白上流は会うといつも彼女を夢子姉と呼んでいた。
陰では、やはり夢子と呼び捨てにしていたが。
陸川北斗はカフスを整え、袖についた乾いた血痕を叩くと、さっきまでの険しい表情は消え、口元には笑みさえ浮かんでいた。
白上流:「北斗兄さん、夢子に殴られておかしくなったのか? こんな時に笑えるなんて。明日その傷をどう見られて、どう説明するか考えろよ!」
陸川北斗は意に介さなかった。
説明する必要などあるか。妻に殴られただけだ。
——
別荘の寝室。
陸川北斗が傷を負って去った後、天樹夢子は彼が戻ってくるのを待っていたが、その日は帰ってこなかった。
翌朝、身支度を整えて家を出ると、彼女は法務代理の件を話し合うため、直接陸川グループへと向かった。
応接室で、秘書が丁重に言った。
「天樹弁護士、陸川社長は会議中でして、本日は法務代理の件についてはお話しできません」
秘書が朝日法律事務所の天樹弁護士が来たと陸川北斗に伝えたところ、陸川北斗は会わないと言ったのだ。
自分をこんな目に遭わせておいて、よくもまあ法務代理の相談に来られたものだ。どの面下げて来たのか。
しばらくして、法務部の責任者がやって来て、天樹夢子に説明した。
「天樹弁護士、朝日法律事務所は、当グループでは検討しておりません」
これは説明ではなく、明らかな拒絶だった。
その後、天樹夢子は何度か陸川グループを訪れたが、陸川北斗はやはり会ってくれず、法務部も彼女と話そうとはしなかった。
一週間後、天樹夢子が仕事を終えた時、黒のマイバッハが法律事務所の少し離れた場所に停まっているのが見え、彼女は歩みを緩めた。
夏目緑は天樹夢子が出てきたのを見て、急いで車を降り、後部座席のドアを開けた。
「若奥様」
天樹夢子の足が止まる。夏目緑は言った。
「若様が、旧宅での夕食にご一緒するためお迎えに上がりました」
天樹夢子は後部座席に座る陸川北斗をちらりと見て、淡々と言った。
「時間ないわ」
何度陸川グループに行っても顔も見せないくせに、今になって芝居に付き合えだなんて、協力する気になれるわけがない。
後部座席で、陸川北斗は相変わらず端座しており、表情は淡々として見えた。
彼は言った。
「どうやら、本当に母親になる気はないようだな」
その言葉は天樹夢子の気に障った。彼女は胸の前で腕を組み、彼を見下ろした。
「チャンスをくれたことあった?」
陸川北斗は袖についた気づきにくい埃を払いながら言った。
「俺と寝られないのは、お前の修行が足りないからだ」
そして、彼は顔を上げた。
「天樹夢子、これからは月に一度帰る。その機会を掴めるかどうかは、お前次第だ」
月に一度?
もし日が合わなければ、彼はただ帰ってくるだけで無駄足になる。それに、陸川北斗はそんなに物分かりの良い男ではない。素直に務めを果たすはずがない。
そこまで計算し、天樹夢子は言った。
「週に一度よ。交渉の余地はないわ」
陸川北斗は天樹夢子をしばらく見ていたが、微かに紅い薄唇が弧を描いた。
「乗れ」
最近、陸川天誠の監視が厳しく、父と母からもかなりのプレッシャーをかけられている。子供を作るかどうかは重要ではないが、彼の態度はきちんと示さなければならない。
陸川北斗が承諾した。その次の瞬間、天樹夢子は妖艶に微笑み、身をかがめて陸川北斗の隣に腰を下ろした。
夏目緑は後部座席のドアを閉め、ほっと一息ついて自分も車に乗り込んだ。
家に帰って寝るのにさえ駆け引きが必要とは、夫婦としてここまでくると終わっている。
ほどなくして、陸川北斗と天樹夢子が旧宅に入ると、おばあ様が駆け足で出迎えてきた。
「あらまあ! 私の夢子ちゃんが帰ってきたわね。早くおばあちゃんに見せてごらん、夢子ちゃん、赤ちゃんはできた?」
そう言うと、おばあ様は天樹夢子のお腹に耳を当てて様子をうかがった。
天樹夢子は気まずくなった。
「おばあ様、まだです」
おばあ様はがっかりした様子で、まっすぐ立ち直ると言った。
「煙、あなたと北斗は結婚してもう二年よ。どうしてまだ音沙汰がないの? 病院には行ったの? 問題はあなたなの、それとも北斗なの?」
天樹夢子:「私の検査は全部正常です」
産みたいのはやまやまだが、単性生殖はできない。でなければ、とっくに何十人も産んでいる。
それを聞いて、おばあ様は顔を陸川北斗に向けた。
「北斗、それじゃあ、問題はあなたにあるってことね」
「この子は、図体は大きいのに、子供一人作れないなんて。こんなに立派に育ててやったのに、無駄だったわ」
陸川北斗:「おばあ様、俺と夢子はまだ若いですし、最近はそのつもりはありません」
結婚して二年にもなるのに、そのつもりがない? 誰を騙そうというのか。
おばあ様が陸川北斗に言い返そうとした時、陸川天誠が階下からやって来た。
「母さん、夢子と北斗のことだ。彼らには彼らの考えがある。余計な口出しはするな」
そう言うと、彼は再び陸川北斗に目を向けた。
「北斗、こっちへ来い。少し話がある」
陸川北斗が呼ばれていくと、天樹夢子はリビングでおじい様とおばあ様と一緒に世間話をしたりテレビを見たりして過ごした。
彼らが話し終えて夕食になった時、陸川天誠は単刀直入に尋ねた。
「夢子、最近、会社の法務代理について交渉しているそうだな?」
天樹夢子は顔を上げた。
「はい、お義父様」
陸川天誠:「明日、直接会社へ行って契約を結びなさい」
天樹夢子が卒業した時、陸川天誠は彼女を陸川グループに入れ、しっかり育てたいと考えていた。しかし、天樹夢子自身がそれを望まなかったのだ。
天樹夢子は途端に嬉しくなった。
「ありがとうございます、お義父様」
ここ何年も、陸川天誠は彼女に文句一つ言わず、いつも彼女のことを考え、助けてくれていた。
もし陸川天誠が彼女よりずっと年上でなく、三上汐浪が彼女にとても良くしてくれていなければ、陸川天誠に嫁ぎたいとさえ思っただろう。
その方が、陸川北斗に嫁ぐよりずっと良かったはずだ。
傍らでは、おばあ様がしきりに陸川北斗の皿におかずを盛っていた。
「北斗、たくさん食べて体に精をつけなさい」
天樹夢子が横目でちらりと見ると、おっと、おばあ様が陸川北斗に盛っているおかずは、どれもこれも滋養強壮に良いものばかりだった。
