第2章
三十分後、アパートの外の廊下に、切羽詰まったような足音が響いた。
ヨルは即座に警戒し、低く威嚇するような唸り声をあげてドアに駆け寄った。
私が覗き穴から外を見ると、見慣れた人影が立っていた――三浦煉だ。皺の寄った白衣をまとい、その瞳には怒りと複雑な感情が入り混じっている。
「うわ、三十分で着いたのか?飛んできたのかよ」
ドアを開けながら、私は無理に作った気軽さで言った。
冷たい風と消毒液の匂いが、一斉に部屋へ流れ込んでくる。三浦煉は冷ややかに部屋を見渡し、壁に飾られた戦争写真、散らばった薬瓶、そしてテーブルの上の診断書へと視線を滑らせた。
「お前が演じているという『死の芝居』がどれほどのものか、この目で確かめに来た」
彼はそう言って敷居をまたいだ。その声は氷のように冷たいままだ。
ヨルはこの見知らぬ男に明らかな敵意を示し、毛を逆立て、喉の奥で威嚇の唸り声を響かせている。
三浦煉の視線は部屋をさまよい、やがてテーブルの上の薬瓶に落ち着いた。医者である彼には、それらの薬が何かすぐに分かった。モルヒネ、鎮痛パッチ、吐き気止め……これらは標準的なPTSDの治療薬ではない。
彼の表情に、微かな変化が現れ始めた。
その視線が、病理標本を観察するような臨床的な精密さで私の顔を検分する。明らかな体重の減少、窪んだ目、不健康な黄みを帯びた肌の色。
私はドアフレームに寄りかかり、生死を前にした者特有の穏やかな口調で言った。
「私の最後の舞台へようこそ、三浦先生。あなたのその医者の目で、私の演技に専門的な採点でもしてもらえたら光栄だ」
三浦煉はリビングの中央に立ち、戦争写真、軍務の証明書、そして薬瓶の間で視線を動かしながら、内なる怒りがより複雑な何かに取って代わられ始めているようだった……。
彼の声には嘲りが含まれていた。
「大した演技力だな」
私はかろうじて軽く笑ってみせた。
「お褒めにどうも」
「被害者ヅラが様になってるじゃないか……」
三浦煉は言葉を引っぱったが、私を観察しているのが分かった。
「そのメイク、美容インフルエンサーにでもなれるんじゃないか」
私はコーヒーテーブルに向かって歩き出した。一歩一歩がまるで底なし沼を歩いているように感じる。この疲労は偽れるものではない――骨の髄にまで染みつき、重く、永続的なものになっていた。
「座れよ」
私はソファを指差した。
「見せたいものがある」
引き出しから、軍隊式の正確さで整理しておいた書類フォルダを取り出した。
不動産権利書、退役軍人保険証書、写真機材評価書、手書きのカメラコレクションの目録――すべてが最後の任務説明のように並べられている。
「これが私の全財産だ」
私は言った。
「アパートを売って、まともな墓地を買ってくれ。残りは退役軍人PTSD財団に寄付。保険金があればヨルは数年楽に暮らせるが、この子に必要なのは金だけじゃない」
私は三浦煉が不動産権利書を手に取るのを見ていた。
「お前……遺書を書いてるのか?自分の葬式の計画を?」
彼の声から確信が消えていた。
「他に何をするっていうんだ?」
「ヨルには特別なケアが必要だ――戦場でのPTSDを抱えている」
私はそう言って、膝をかがめてヨルの頭を撫でた。膝がその動きに抗議の声をあげる。
「あなたが毛のアレルギーなのは知ってるが、この子のために良い軍用犬の里親を見つけるのを手伝ってくれ。一度ならず私の命を救ってくれたんだ」
三浦煉は無造作にしゃがみ込み、犬と私の反応の両方を試すかのように、ヨルの首輪に手を伸ばした。
ヨルは唸り声をあげて後ずさった。
私は素早く前に出て、ヨルを彼の手からぐいと引き離した。
「三浦煉!」
三浦煉は立ち上がると、私の狭いリビングを歩き回り始めた。デスクランプの光が作る影が、彼の顔の上で揺れ動く。
私は彼が細部を観察しているのを見ていた。軍隊式の几帳面な整理、テーブルの上の六種類の処方薬の瓶、隅に置かれた携帯用霧化器。
三浦煉は言った。
「まだそのドラマチックな芝居に夢中か?いつまでその演技を続けるつもりだ?」
私は椅子に深く身を沈めた。疲労が重力のように私を引っ張る。
「演技?三浦煉、あなたは本当に、私があなたのためにショーを演じる必要があると思ってるのか?」
彼に嘘をつく理由はなかった。私たちは三年前に終わった関係だ。もし彼を取り戻したかったなら、末期ガンより千倍マシな嘘があったはずだ。
「じゃあ何が望みだ?」
彼は歩みを止め、その声がかすかにひび割れ始めた。
「やり直したいとでも?」
私は目を閉じた。私たちの間にあった、言われなかったすべてのことの重みを感じる。
「最後の写真シリーズを撮りたいんだ……」
私の声は囁き声に近かった。
「私の最後の作品として。まだカメラをしっかり持てるうちに、何かを記録しておきたい」
睫毛の隙間から、三浦煉が窓の方へ向き直り、街の灯りを見つめているのが見えた。彼の脳と心の間の葛藤が聞こえてくるようだった。
「分かった」
彼は振り返って私と向き合った。
「お前の芝居に付き合ってやる。何を撮りたい?死に顔の写真か?」
私は苦笑いを浮かべた。
「協力してくれるなら、何かでも撮りたい。昔よく行った場所とか。ヨルの日常とか。あるいは……」
私は一度言葉を切り、真実を告げるための勇気をかき集めた。
「あるいは……かつて愛した人間が死んでいくのを、元軍医がどう見つめるのかを」
三浦煉の顔に、三秒間で十数個の感情が駆け巡った。
「俺が運転する」
彼の声はかすれていた。
「だが、この茶番が終わったら、そこで終わりにしろ。本当に死ぬまで自分をすり減らすな」
ヨルが私の足元に落ち着き、その賢そうな茶色い瞳が私たち二人を見つめている。
「明日は何時にする?」と三浦煉が尋ねた。
「あなたの都合でいい」
私は肩をすくめ、そしてはっと気づいて付け加えた。
「時間はたっぷりある。ただ……残りはもうあまりないが」
三浦煉は白衣のポケットから車の鍵を取り出し、手のひらの上で回転させた――戦場で見た、彼の神経質な癖だ。
「帰る」
彼はドアに向かった。
「明日の朝九時だ。迎えに来る」
私は呼びかけた。
「三浦煉」
彼は立ち止まった。
「なんだ?」
「ありがとう」
言葉は思ったより柔らかく出た。
「……どんな理由であれ」
彼のドアノブに置かれた手が凍りついた。
「俺はただ、お前がこの芝居をどこまで続けるのか、見届けたいだけだ」






