第3章
翌朝、私の住むアパートの前に、一台の滑らかな黒いBMWがエンジンをかけたまま停まっていた。
窓のカーテンの隙間から覗くと、運転席には三浦煉が座っていた。その引き結ばれた顎のラインは、私たちが最悪の口論をしていた頃を思い出させる、見慣れた頑固なものだった。
「おいで、ヨル」と私はささやき、年代物のライカのカメラバッグを慎重に肩にかけた。
階段を一段一段下りる足取りは、まるで糖蜜の中を歩いているかのように重かった。
脚は無理に動かそうとするたびに震え、息を整えるために二度も立ち止まらなければならなかった。ヨルが私の脇に体をすり寄せ、その温かい体が頼もしい支えとなってくれた。
私たちが近づくと、三浦煉は車から降りようともせず、窓を下げた。
「乗れよ、『巨匠カメラマン』様。今日はどこで『最後の傑作』とやらを撮るんだ?」
彼の声には皮肉がたっぷりと滲んでいた。
私はヨルのために後部座席のドアを開けた。ヨルはためらい、あからさまな不信感を込めて三浦煉を見つめている。
「大丈夫だよ」と私はつぶやいたが、彼を車に乗せるのを手伝う自分の手は震えていた。
車内は高価な革の匂いと、三浦煉にいつも纏わりついている、あの消毒液のような独特の匂いがした。私は助手席に滑り込み、生まれたばかりの赤ん坊をあやすようにカメラを抱きかかえた。
「戦争記念地」と私は、ますます脆くなっていく体の周りでシートベルトを締めながら言った。
「最後の……人物写真を、何枚か撮りたいの」
三浦煉の視線がバックミラー越しにちらりと私を捉え、すぐに逸らされた。
「人物写真?誰のだ?あの石像どもか?」
私は目を閉じた。BMWが滑らかに加速し、車の流れに合流していくのを感じる。
「……私自身の、よ」
二十分後、私たちは戦争記念地の駐車場に車を滑り込ませた。
朝の陽光が白い大理石の建造物に長い影を落とし、数人の年老いた退役軍人たちが慰霊碑の前に静かに佇んでいた。
三浦煉はエンジンを切ったが、車から降りようとはしなかった。
「どれくらいかかるんだ?」
ドアハンドルを握りしめ、まるで山に登るかのような気力を振り絞る。立ち上がった瞬間、膝が崩れ落ちそうになり、体を支えるために車のドアにぐっと寄りかからなければならなかった。
次の瞬間には三浦煉がそばにいた。彼の怒りを、医師としての本能が上回ったのだ。
「近藤礼芽――」
「大丈夫……」
私は彼を手で制した。
「少し疲れただけ」
慰霊の地は、静かで厳かに私たちの前に広がっていた。私はライカを取り出し、十年以上も体に染みついた動きで露出計を確認した。
「この場所は……いつも、故郷に帰れなかった人たちのことを思い出させるの」
カメラの設定を調整しながら、私は言った。
三浦煉は鼻を鳴らした。
「大げさな悲劇ごっこはもういい。撮りたいものがあるなら、さっさと済ませろ」
私はヨルを傍らに、慰霊碑の前に立った。
朝の光は完璧だった。柔らかく金色に輝き、刻まれた戦没者たちの名前を際立たせている。
「自撮りよ」と、カメラのタイマーをセットしながら私は説明した。
「私の……」
言葉をためらい、そして意を決して続けた。
「どう見える?メイク、大丈夫かな?これ、私の墓石に使う写真になるんだから。綺麗に写りたいの」
その言葉は、物理的な一撃のように三浦煉を打ちのめした。カメラに映る彼の顔を、私は見ていた。懸命に保っていた冷静さに、何かがひび割れるのが見えた。
「その芝居はもう終わりか?」
だが、その声には先ほどまでの刺々しさがなかった。
私は髪を整え、ジャケットの襟を正し、カメラに向かって微笑んだ――世界中の戦場で浮かべてきたのと同じ、プロフェッショナルな微笑みを。タイマーが鳴り、シャッターが切れた。
追悼式のための、一枚。
もう一枚は、死亡記事用。
三枚目は、手がひどく震えていて、最初の二枚が十分に鮮明かどうか自信が持てなかったから。
三浦煉は凍りついたように立ち尽くし、私がかつて他人の死を記録したのと同じ几帳面な正確さで、自分自身の死の準備をするのをただ見ていた。
彼の医師としての目は、もはや目の前で起きていることを無視できなかった。私が意図的に慎重に動き、まるで体が残された力を配給しているかのようにエネルギーを節約している様を。私の手の微かな震えは、緊張からではなく――衰弱からくるものだった。
四枚目のシャッターが切れたとき、私の脚は完全に力を失った。
慰霊碑の壁に崩れ落ち、カメラが手から滑り落ちそうになる。世界が横に傾き、口の中に鉄の味が広がった。
「大丈夫……ちょっと疲れただけ。終わらせて……」
立ち上がろうとしたが、体は完全に私を裏切った。
ヨルがすぐにそばに来て、温かく、しっかりとした存在感を示してくれる。
そして、三浦煉もそこにいた。
「本当に、病気なのか?」
その問いは、まるで何時間もその言葉と戦っていたかのように、絞り出すような声で発せられた。
私は言った。
「言ったでしょ……演技じゃないって」
三浦煉の手が私の額へ、そして頬骨へと動き、私の病の地理を読み取るように触れた。
私の皮膚は紙のように薄く、微熱で燃えていた。彼は、筋肉が衰え落ちて鋭くなった骨の一つ一つを感じ取ることができた。
BMWに戻ると、私は壊れた人形のように助手席にぐったりと身を預けた。ヨルは前の席に乗り込み、心配に満ちた茶色の瞳で私を見つめながら、その頭を私の膝の上に乗せた。
三浦煉はハンドルを握りしめ、その指の関節は白くなっていた。彼の訓練と感情との間の戦いが、聞こえてきそうなほどだった。
何の前触れもなく、彼はエンジンをかけ、駐車場を出た――しかし、私のアパートとは違う方向へ。
「病院に連れて行く。精密検査だ」
「私の『嘘』を暴くため?」
三浦煉の顎が引き締まった。
「検査の後で、お前がどうやってこの芝居を続けるか見ものだな」
だが、その声にはもはや何の確信も込められていなかった。
私は目を閉じた。車が滑らかに加速し、高速道路に合流していくのを感じる。
「いいわ。でも、結果が出るまで、ヨルの面倒を見るって約束して」
沈黙が、街の三キロ分続いた。
やがて、三浦煉が答えた。
「……約束する」
半ば閉じた目を通して、サイドミラーに映る三浦煉の姿を見た。
ハンドルを握る彼の手は、ほとんど気づかないほど微かに震えていた。そして私は悟った。慰霊碑と私の崩壊との間のどこかで、彼はこれを芝居だと考えるのをやめたのだと。
病院が、科学と希望の輝く要塞のように前方にそびえ立っていた。
三浦煉は慣れた手つきで立体駐車場を進んでいく。彼がエンジンを切っても、私たちはどちらも動かなかった。
「近藤礼芽」と、彼は静かに言った。
「何?」
「もしお前が嘘をついているなら……もしこれが全部、手の込んだ駆け引きだとしたら……」
私は彼の方をまっすぐに向き直った。
「そしたら、あなたは死にゆく女の最後の願いに、一朝付き合ってあげたってことになるだけよ。土曜日を無駄にする方法としては、最悪ってわけでもないでしょう」
彼の手が再びハンドルを強く握りしめた。
「そして、もし本当なら……」
彼は気づき始めていた。私が真実を語っているのかもしれないと……そしてもしそうなら、彼の三年間の憎しみと冷たさは、完全に無意味なものになるのだと。
外では、救急車がサイレンを鳴らしながら救急入口へと向かっていた。他の誰かの危機と悲劇を乗せて。
もうすぐ、私のそれも仲間入りするだろう。






