第4章

春の朝のカフェは、街が目を覚ます瞬間を切り取るには最高のロケーションだ。

通りの向こう、柔らかな光に包まれた雑踏にピントを合わせ、シャッターを切ろうとしたその時、ファインダーに見慣れた人影が滑り込んできた。越沼政生——越沼玲の夫が、向かいのビジネスホテルのエントランスから姿を現したのだ。彼の隣には小柄な女が寄り添い、二人は何かを親密そうに囁き合っている。

俺はカメラを下ろし、目を細めてその光景を注視した。女は仕立ての良いスーツに身を包み、年の頃は玲さんより幾分か若く見える。満面の笑みを浮かべ、時折、男の腕に馴れ馴れしく手を触れていた。ただの同僚。その一言で片付けるには、あまりにも濃...

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