第9章

一瞬だけ躊躇したが、結局、越沼政生のことは見なかったふりを通すことに決めた。しかし、俺が雑誌に顔を埋めた、まさにその瞬間、カフェのドアが再び開き、小柄で可憐な女が入ってきた。

身長は一六〇センチに満たないくらいだろうか。透けるように肌が白く、薄化粧を施し、品の良いオフィスウェアに身を包んでいる。

この女が、玲さんの言っていた「さゆり」に違いない。

彼女は、まっすぐ政生のテーブルへと向かっていく。その顔には、蜜のように甘い笑みが浮かんでいた。

俺は思わず雑誌を盾のようにして、顔を隠した。ページの隙間から、さゆりが優雅に腰を下ろし、政生と親しげに言葉を交わすのが見えた。二人の...

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