第86章 北村先生はキスしたいか

北村萌花は、微睡みから重たい瞼をこじ開けた。酔いが一気に回り、世界がぐるぐると回っている。目の前には、佐藤健志が二人に見えた。

 彼女は指を左右に揺らしながら呟く。

「あら、どっちが本物?」

 佐藤健志は彼女の手を優しく握りしめた。

「どっちも俺だ。酔っ払ってるな。とりあえず部屋に戻るぞ」

「酔ってないわよ。戻ったら、あなたの治療をしなきゃいけないんだから」

 佐藤健志は言葉を失う。

(……これ以上、酔っ払いに鍼を持たせるわけにはいかないだろ)

 今の彼女の状態では、俺が二人に見えているらしい。このままでは鍼も二倍打たれかねない。

 佐藤健志は部下の達也を呼び、彼女をホテル...

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