第90章 花も恥じらう

佐藤健志は咳払いを一つして、注意を促した。

「北村さん、景色に見とれてる場合じゃないぞ。俺たちの目的は客を奪うことだ。忘れるな」

 北村萌花は頷く。

「ええ、分かってます。でなきゃ、さっき助け舟を出したりしませんよ」

(本当にケチな男。こんなに綺麗な景色が目の前にあるのに、見なきゃ損じゃない)

 斉藤悠斗が手配した手漕ぎボートは二人乗りだった。斉藤と松島彩乃が先頭を行き、山崎夫婦が中間に続く。達也は足を怪我している佐藤健志をボートに乗せた後、岸に残らざるを得なかった。

「佐藤社長、お気をつけて!」

「岸で待機してろ」

 佐藤健志は短く応じた。

 ボートにはペダルとオールがつ...

ログインして続きを読む