第30章

水原音子は無頓着に笑って言った。「むしろ訴えてくれないと困るの」

「ほう?」佐藤光弘は少し考えて尋ねた。「そのデータ、バックアップを取ってあるの?」

調香師として、年間どれだけの実験を行い、途中での調整などをするか分からない。データを記録するだけでなく、習慣的にバックアップを取っておくのは当然のことだ。長い時間が経過し、万が一何か見落としやエラーがあった場合でも、確認しやすくなる。

「バックアップはあったけど、それも一緒に持っていかれたわ」

以前は高橋遥斗に対して全く警戒していなかった。彼をあんなに信頼していたから、データを移したり隠したりするなんて考えもしなかった。すべての資料は研...

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