第10章

その瞬間、私のスマートフォンが唐突に震えだした。

静寂に包まれた夜に、着信音がやけに甲高く響く。

ディスプレイに表示された発信元を一瞥する。『A国領事館』。

「申し訳ありません。重要な電話のようですので」

秋生に静かにそう告げ、通話ボタンを押した。

「こんにちは、A国領事館ビザ課です」受話器の向こうから事務的な声が聞こえてくる。「西野華恋様ですね。おめでとうございます。就労ビザが承認されました。来週の月曜日に受け取りにいらしてください」

「ご連絡ありがとうございます。予定通り伺います」

通話を終え、秋生の方を見る。

「何の電話だ?」彼が尋ねた。

「A国の就労ビザが下りました...

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