第37章

高橋司は葉山萌香を抱きしめていた。

荒唐とも言える、まるで前世からの記憶のような感覚。

「高橋社長」

葉山萌香はためらいながらも、抵抗しなかった。

本当に疲れ果てていたからだ。

「ん……」高橋司は彼女の首筋に顔を埋め、小さく返事した。

葉山萌香の心は。

何かに少しずつ引き裂かれているようだった。

「もう疲れました、ただ平穏な普通の生活を送りたいだけなんです……放してください」

取り乱すこともなく。

怒りに震える叫びもなく。

ただそう、静かに願い出た。

高橋司は無意識に、葉山萌香の腰に回した腕に力を込めた。

「私は白石さんじゃありません」葉山萌香は続けた。

「あなた...

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