第59章

木村さんはお酒を飲んでいた。

葉山萌香は特に何も言わなかった。

彼女は手伝ってくれた人たちをもてなすよう、一定額の金を振り込んでおいた。

それで終わり。

葉山萌香はゆっくりと自分の荷物をまとめ始めた。

昨日着ていた服を片付けていると、中からダイヤモンドのカフスが一つ落ちてきた。

葉山萌香は一瞬固まった。

手を伸ばして拾い上げる。

このカフスは、去年高橋司とスイス出張に行った時、あるデザイナーショップを見ていて見つけたものだった。

とても気に入って、すぐに二ヶ月分の給料をはたいて買ったのだ。

今思えば滑稽なことだ。

自分の立場をよく分かっていたのに。

贈り物でさえ僭越だ...

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