第31章

公園町、高尾運転手が車を停めると、水原歩美は素早くドアを開けて降りた。

振り返って高橋司に言った。

「今日はありがとう。鈴木さんのことが心配なら、そちらに行ってあげて。お婆さんにはなにも変なこと言わないから!」

高橋司はじっと彼女を見つめていた。暗い車内で、その瞳は明暗をはっきりと映していた。

彼が何も言わないのを見て、水原歩美はドアを閉め、家の中へと歩いていった。

高尾運転手は背後の高橋社長から発せられる森のように冷たい気配を感じ取り、その場で固まってしまった。ドアを開けるべきか迷っていた。

彼はたった今、バックミラー越しに高橋社長がドアを開けようとする手を見たはずだった。

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