第32章

階段の音を聞いて、高橋司は顔を上げて見やったが、すぐに手元の新聞に目を戻した。

間もなく林さんが朝食を全て運んできた。

「若旦那、若奥様、朝食の用意ができましたよ」

レストランに来ると、高橋司は水原歩美のために椅子を引き、自分は向かい側に座った。

水原歩美は唇を噛んだ。最近の彼は自分に対して少し優しくなったように思える。二人は鈴木雪子が帰国する前のような、互いを敬う関係に戻ったようだった。

林さんは若夫婦がまた一緒にいるのを見て、内心ほっとした。

「若旦那、若奥様、明日は奥様の命日でございます。お婆さまのお考えでは、今年はレストランを貸し切って、奥様の元生徒さんたちに食事を振る舞...

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