第52章

高橋司はグラスを持つ手を一瞬止め、「ん」と短く返した。その声からは特に感情が読み取れなかった。

「どうやって知ったんだ?」

彼と水原歩美の離婚は、まだ公表していなかった。

水原歩美の父親さえ知らないはずだった。

神原森也はソファに寄りかかり、くつろいだ表情で言った。

「水原優子が最近、妹の出国手続きを進めているらしい。海外研修だとか」

高橋司は淡々とした表情でそれを聞いていた。

水原歩美はすでに錦新病院に辞表を提出しており、いつでも去ることができる状態だった。

海外研修は彼女が以前から望んでいたことだったので、高橋司は特に驚きはしなかった。

「彼女はフランスで高額な一軒家も...

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