第60章

「水原さんのご家柄が良いことをすっかり忘れていました」

彼はやや気まずそうな表情を浮かべながら、車のキーをしまい込んだ。

水原歩美は落ち着いた様子で、静かに彼から視線を外し、淡々とした声で言った。

「情報通なんですね」

田中さんは一瞬言葉に詰まり、少し後ろめたそうに水原歩美を見た。

彼女の瞳の色が変わらないのを見て、ほっと胸をなでおろした。

「ただ、他の同級生が雑談していた時に少し話題に出ただけで、ちょっと耳に入っただけなんです」

彼が話している間に、エレベーターのドアが開いた。

水原歩美はエレベーターの中に足を踏み入れ、田中さんもすぐに後に続いた。

彼...

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