第36章 彼女は私の好きな女性

佐藤奈須は相変わらず放蕩息子といった風情で、気だるげにゆったりと構えている。

その手にもまた、花束が抱えられていた。

大きな赤い薔薇の束だ。

彼はまっすぐこちらへ歩いてくると、彼女の母親の墓を通り過ぎ、さらに三つの墓を横切り、ある墓石の前で足を止めた。

彼はその赤い薔薇の束を墓石の前に供えると、顔から笑みを消し、恭しく礼をした。

「佐藤馨さんは赤い薔薇がお好きだったので、いつも赤い薔薇を贈るんです」

鈴木七海は驚いた。

佐藤馨とは、彼の何者なのだろう?

彼は屈んで赤い薔薇を二つに分けると、その片方を抱えて歩み寄り、彼女の前の墓石を見て、笑いながら言った。

「まさか、俺たちの...

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