第32章

夜の帳が静かに降り、新青年宿の入り口の街灯が灯り、この静かな夜に温もりを添えていた。池下誠がホテルを出ようとしたとき、入り口に見覚えのある人影が現れた。よく見ると、それは池下紫おばさんだった。

池下紫は足早に池下誠の前まで歩み寄り、顔には少し厳しい表情を浮かべていた。彼女は口を開いた。

「誠、どこに行くつもり?」

池下誠は少し驚き、答えた。

「おばさん、家に帰るところだけど。どうしたの?」

池下紫は首を振り、断固とした口調で言った。

「ダメよ、行っちゃいけない。桜井美也が今ここに一人でいるの。あなたが残って彼女の面倒を見なきゃ」

池下誠は一瞬固まり、少し困ったように言った。

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