第37章

桜井絢子は彼らを急かし、二人きりになる機会を与えた。

桜井美也は彼女に押されるようにキッチンへ向かった。

その時、池下誠は手を止めることなく、全ての食材を丁寧に洗い続けていた。

彼女の記憶では、池下誠はこういった家事をする人ではなかった。

「どうしてここに来たんだ」

池下誠が言った。

「電話に出ないから、母さんがどこに行ったのか直接聞きに来たに決まってるだろう」

桜井美也は彼と一緒に野菜を洗いながら言った。

「昔はこういうことしなかったよね」

池下誠は顔を横に向け、からかうような口調で言った。

「義母さんに気に入られたいからさ」

「冗談でしょ」

「なぜ電話に出なかった...

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