第58章

この言葉が出た瞬間、桜井美也はその場に凍りついた。

足元から冷気が這い上がり、全身が凍えるように冷たくなり、生気を失った。

おばさんは何を言ったの?

池下誠が彼女と結婚したのは、祖父の持つ株式のため?

桜井美也は虚ろな目で振り返り、半開きのドアの隙間から中の様子を覗き見た。池下紫が立ったまま、少し感情的になっている。

一方、池下誠はソファで足を組んで座り、瞳に一切の動揺を見せていなかった。

「ああ」彼は簡潔に返事をした。

桜井美也の顔から血の気が引き、目には衝撃の色しかなかった。

なるほど、彼が自分と結婚した理由。条件付きだったのだ。

結婚初夜に彼が自分との関係を持たないと...

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