第7章 彼と離婚したい

桜井美也が退院したその日、陽光は明るく輝いていたが、彼女の心の中の陰りを照らすことはできなかった。病院の門を出ると、すぐに待っていた高橋陽子の姿が目に入った。高橋陽子は彼女の友人であり、この街で数少ない温かさを感じられる存在だった。

「どうして退院するのに知らせてくれなかったの?」高橋陽子は駆け寄り、少しの責めと心配を込めた口調で言った。「顔色がまだこんなに青白いじゃない」

桜井美也はかすかに笑みを浮かべた。「迷惑をかけたくなかったの」

「これが迷惑だなんて、そんなことないわよ」高橋陽子は不満げに顔を背け、ふと桜井美也の額の傷に気づいた。「怪我したの?どうしたの?」

桜井美也はその傷に触れ、淡々と答えた。「建設現場でちょっとした事故があったの」

「建設現場?どうしてそんなところに?」高橋陽子は驚いて尋ねた。

「私がそのプロジェクトの責任者だから」桜井美也は説明した。

高橋陽子は目を見開いた。「あなたが?女性が?建設現場で?」

「そう、私は女性だけど、ちゃんとやれるの」桜井美也はきっぱりと言った。

高橋陽子は彼女を見つめ、目に一瞬の敬意が浮かんだ。「本当に見直したわ。でも、今回の怪我、池下誠は知ってるの?」

池下誠の名前が出ると、桜井美也の目は暗くなった。「彼は知ってるけど、見舞いには来なかった」

「どうして?」高橋陽子は理解できない様子で尋ねた。

「彼には他の女がいるの」桜井美也は苦々しく言った。

「何ですって?」高橋陽子は驚愕の表情で彼女を見つめた。「彼がそんなことをするなんて!」

桜井美也は何も言わず、ただ黙って頭を垂れた。高橋陽子は彼女を見つめ、心の中に怒りが湧き上がった。「そんな男、いらないわよ!あなたにはもっとふさわしい人がいるわ!」

桜井美也は顔を上げ、高橋陽子を見つめた。「そうね、私はもっといい人にふさわしい。だから、彼と離婚することに決めたの」

「離婚?」高橋陽子は目を見開いた。「本当に決めたの?」

「そう、決めたの」桜井美也はきっぱりと言った。「もう価値のない男に青春を無駄にしたくないの」

高橋陽子は彼女を見つめ、目に一瞬の賞賛が浮かんだ。「応援するわ!何か助けが必要なら、いつでも言って」

桜井美也は感謝の気持ちで彼女を見つめた。「ありがとう、陽子」

桜井美也は退院後、直接自分のマンションに戻った。彼女は思い出の詰まったこの家を離れる準備を始めた。

忙しくしていると、突然ドアベルが鳴った。ドアを開けると、そこには焦った表情の池下誠が立っていた。

「マンションに戻ったのか?どうして知らせてくれなかったんだ?」彼の口調には少しの責めが含まれていた。

「知らせる?道村彩音から離れて私に付き合ってもらうために?」桜井美也の口調は冷たく、皮肉が混じっていた。

池下誠の顔色が変わった。「全部知っていたのか?」

「そう、全部知っていたわ」桜井美也は顔を背け、彼の偽善的な顔を見たくなかった。「離婚しよう」

「離婚?」池下誠は彼女がそんな要求をするとは思っていなかったようだ。「本気なのか?」

「本気よ」桜井美也の声は冷たく、決然としていた。「他の女性を心に抱えている夫なんていらない」

池下誠はしばらく黙っていた。「よく考えてみろ」

彼の返事に桜井美也は少し驚いた。彼が引き止めると思っていたが、そうではなかった。もしかしたら、彼はもう彼女を愛していないのかもしれない。

桜井美也は何も言わず、黙々と荷物を整理し続けた。池下誠はドアのところに立ち、彼女の忙しい姿を見つめていたが、やがてマンションを去り、寂しげな背中を残した。桜井美也は整理を続けた。未来の道はまだ長いが、彼女は自分が歩んでいけると信じていた。

彼女は池下誠を忘れ、この失敗した結婚を忘れ、新しい生活を始めるのだ。

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