第19章

激しい雨が降り注いでいる。別荘から下界へと続く山道は、果てしなく長い。

水無瀬柚季はたった一人で歩いていた。大粒の雨が容赦なく顔を打ち、またたく間に衣服を濡らしていく。

別荘の入り口で、水無瀬の父は拳を握りしめ、娘の華奢な背中を見送っていた。

一瞬、名状しがたい感情が胸を突き上げる。

それは無言の抗議のようでもあった。

だが、八雲煌が放った一言が彼を縛り付ける。

「心が痛むなら呼び戻せばいい。そうすれば、この取引は白紙だ」

白紙に戻るということは、すべてを失うことを意味する。

父は目を閉じた。

「心は痛む。だが、ここまで来て、これだけのことをして……今さら後悔...

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