第32章

身を沈めているのは花叢の中。むせ返るような花の香りが、鼻先をかすめて漂っている。

背後から月光が降り注ぎ、逆光となった鷺沢雪紘の表情は読み取れない。だが、彼が自分を見下ろしている視線だけは、はっきりと感じられた。

まるで物理的な重みを持った何かが、肌に触れているかのような錯覚。

水無瀬柚季は身じろぎ一つできなかった。

如月マネージャーの気配が近づいてくる。足音からして、その距離はおよそ一メートル。

水無瀬柚季はかつてないほどの緊張に襲われ、呼吸をするのも忘れて硬直した。

不意に、鷺沢雪紘が顔を近づけてきた。

彼女は反射的に息を止める。

「怖気づいたか?」

決...

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