第72章

光がドアをそっと押し開け、忍び足で部屋に入ってくる。ベッドの縁にへばりつくようにして、横たわる母親の寝顔を覗き込んだ。

「パパ、ママは大丈夫かな……?」

「大丈夫だ。ママはただ疲れているだけだよ」

鷺沢雪紘は声を潜めて答えた。

彼は光の頭を優しく撫で、水無瀬柚季のそばについているよう促すと、背を向けて廊下へと出た。

専属の医師が、廊下で待機していた。

「鷺沢さん、彼女の腹部の傷ですが……処置が遅れたために化膿しかけていました。薬を塗っておきましたが、静養中は食事制限が必要です。それに、かなり体が弱っておられるようで……」

医師の説明が続くにつれ、鷺沢雪紘の表情は冷ややか...

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