第76章

封印していたはずの記憶が、突如として脳裏に蘇る。

水無瀬柚季は両腕を抱きしめ、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。

薄暗い路地裏、醜悪な男、耳にこびりつく下卑た笑い声……。

あの雨の夜は、彼女にとって一生消えることのない悪夢だ。

膝を抱え込み、背中を冷たい壁に強く押し付ける。そうして凍えるような冷気に触れている時だけが、辛うじて彼女に安らぎを与えてくれた。

だが、亡霊のような記憶は執拗にまとわりつき、彼女を逃がそうとしない。

苦しい。あまりにも辛い。

得体の知れない焦燥と恐怖に心が掻き乱され、背中は瞬く間にじっとりとした冷や汗で濡れていく。

彼女は半狂乱で髪を掻...

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