第2章

生まれ変わった最初の夜、私はほとんど眠れなかった。午前三時、奇妙な音で目が覚めた。夢のうわごとでも、誰かの寝返りの音でもない。隣の姉の部屋から聞こえてくる、意図的に潜められた、何かを暗唱しているかのような声だった。

私は息を殺し、注意深く耳を澄ませた。

「ゴッホのひまわりは希望を表していて……ピカソのキュビスムは伝統を打ち破った……」

水原真衣の声だ。その口調は平坦で、これまで彼女から聞いたことのない、丸暗記するような真剣さを帯びていた。

見えない力に引かれるように、私は静かに起き上がり、裸足で音を立てぬよう抜き足差し足で彼女の部屋のドアへと向かった。ドアの下から光が漏れている。私は用心深く、細い隙間から中を覗き込んだ。

部屋は煌々と明かりがついていた。机の上には印刷された資料と、図書館で借りてきたばかりなのが一目でわかる、まだ真新しい表紙の美術史の本が数冊散らかっている。彼女は姿見の前で何かの練習をしており、その表情はほとんど歪んでいると言っていいほど険しく、何かとてつもなく困難な任務を遂行しているかのようだった。

今日のデートのためのリハーサルをしているのだ。

心臓を見えない手に掴まれたような、息もできないほどの鋭い痛みが走った。

「覚えておいて、私が好きなのはあなたのお金じゃなくて、あなた自身なんだってこと」

彼女はそのセリフを鏡に向かって繰り返す。そのたびに、ぎこちなく不自然な響きになり、まるで無機質で気まずい呪文を唱えているかのようだった。

やがて彼女はぴたりと動きを止め、苛立たしげに髪をかきむしりながら、小声で何か不満を呟いた。隙間が狭すぎて全ては聞き取れなかったが、いくつかのキーワードだけははっきりと私の耳を貫いた。

「……ダサすぎ……でもリサーチでは……これが一番効くって……我慢しなきゃ……バーキン……B市……」

その瞬間、血の気が引くのを感じた。

私は逃亡者のように自分の部屋へ駆け戻り、冷たいドアに背を預けてずるずると座り込んだ。無理やり深呼吸をする。

大丈夫、水原礼音、大丈夫。あなたは彼女に「機会」を返した。彼女がそれをどう使おうと、あなたがとやかく言うことじゃない。もし前の人生で水原真衣が三浦享真に会いに行っていたら、あの悲劇は起きなかった。あなたはただの事故、間違ってその座を奪った簒奪者にすぎないのだから。

でも、どうして……どうして彼女の冷たいリハーサルや、功利的な不満を聞くことが、前の人生で死んだ時よりも心を抉るのだろう?

翌日の午後、私は漫画スタジオで、仕事に没頭して自分を麻痺させようとしていた。

しかし、手の中の木炭の鉛筆は言うことを聞かず、紙の上に歪んだ無意味な線を引っ掻くだけだった。『夢見る者たち』の新しい章を描きたかったのに、頭の中は昨夜のドアの隙間から見た光景でいっぱいだった。鏡の前で練習する姉の硬い表情と、あのくぐもった言葉。

「礼音、大丈夫?」

高橋真佑が心配そうに私を見つめながらやってきた。

「顔色、最悪だよ。幽霊でも見たみたい」

「大丈夫」

私は無理に笑顔を作った。

「ただ……昨夜あまり眠れなくて」

偽りの演技の悪夢を見たの、と心の中で付け加えた。

高橋真佑は私の画用紙の上の混沌とした線を覗き込み、眉をひそめた。

「こんなの、あなたのスタイルじゃない。こんなに……抽象的で憂鬱なものを描くなんて珍しい」

私は視線を落として、はっとした。無意識のうちに、氷の鎖で固く縛られ、粉々に砕けていく心臓を描いていた。その周りには、華美な仮面と折れた羽根が散らばっている。

「真佑」

私は堪えきれず、紙やすりのように乾いた声で尋ねた。

「もし……一番大切に思っている人が、他の誰かに会いに行くとして、その相手が……彼のことを心から好きなのではないかもしれないと知っていたら、祝福できる?」

「え?」

高橋真佑の声がワントーン高くなる。

「礼音、何言ってるの?なんかそれ、すごく複雑で最悪な話じゃない!」

「つまり……それが定められた、『正しい』選択だったとしたら」

私の声はため息のように軽かった。

「正しい?」

高橋真佑は信じられないという顔をした。

「恋に正しいも間違いもないでしょ?でも、誠実と見せかけは別!もし何か別の目的で人に近づくなら、それは祝福じゃなくて……共犯者になるってことだよ!」

私は苦笑しながら首を振った。彼女にはわからないこともある。返さなければならない借りもある。たとえ……その代償が共犯者になることだとしても。それ以上は、何も言えなかった。

午後一時、スマホが震えた。

水原真衣からのメッセージだった。

「水原礼音、狩りの時間よ!今から『夢見る白樺』に会いに行く!幸運を祈ってて!」

指がキーボードの上を彷徨い、長いこと固まっていた。「祈る」という言葉が打てない。ようやく、私は苦労して一言を打ち込んだ。

「頑張って」

しかし、送信完了の通知音が鳴った瞬間、抑えきれない衝動が私を襲った。

見たい。

何かを壊すためじゃない。ただ……ただ、この目で見届ける必要があった。三浦享真が、あんなリハーサルを重ねた、それでいて不器用な演技に本当に騙されるのかどうかを。それとも……心の奥底の、最も暗い片隅に、認めがたい小さな願望があったのだろうか。彼が騙されないでほしい、という希望が。

行かなければならない。自分を完全に諦めさせるために。

私はジャケットを掴むと、スタジオを飛び出した。

午後一時四十五分、私は雲清カフェの向かいの通りに立っていた。前の人生の記憶が、ここが二人の待ち合わせ場所だと告げていた。結局、私は通りの向かいにある古い書店に身を隠すことにした。ちょうどいい角度で、本棚が目隠しになった。

書店の埃っぽい窓ガラス越しに、カフェの入り口を見つめる。この雲清カフェは私の記憶にあるよりも少し古びていて、ペンキがところどころ剥がれ、全盛期を過ぎたような佇まいだった。姉はこんな場所を気に入るだろうか?と、私は無意識に考えた。

午後二時きっかり、見覚えのある姿が現れた。

水原真衣が到着したのだ。彼女は芸術家風でありながら「偶然」高級ブランドのロゴが覗くドレスを着て、使い古されたように見えて高価そうなキャンバス地のトートバッグを提げていた。まるでファッション雑誌の「センスのいい芸術家に見せる着こなし術」という特集から抜け出してきたかのようだった。

入り口に立ち、彼女が周囲を見渡したとき、隠しきれない一瞬の軽蔑がその目に宿るのを、私ははっきりと見た。しかしそれはすぐに、大げさで、値踏みするような好奇の表情に取って代わられ、唇に浮かんだ笑みは定規で測ったかのように整っていた。

彼女が、あらかじめ決められた脚本を忠実に実行しているのが見て取れた。

数分後、カフェから一人の男性が出てきて、まっすぐに彼女の方へ向かった。

私は息を呑んだ。

三浦享真だった。

通りを隔て、一枚のガラス越しだというのに、彼のオーラを感じ取ることができた。シンプルなジーンズとTシャツ姿で、確かに裕福そうには見えない。しかしその歩みは落ち着いており、肩は開かれている。話すときにわずかに首を傾ける仕草は、言葉にできない優雅さと自信を醸し出していた――それは、落ちぶれた人間が持ちうるものではない。

心臓が速く、重く、肋骨を打ちつける。

この人が……本当に、ネットで私と芸術や夢について語り合い、私の魂が理解されたと感じさせてくれた人?本物の『夢見る白樺』?

水原真衣が、即座にあの過剰に明るい、百万回も練習したであろう笑顔を浮かべるのが見えた。彼女のパフォーマンスが、正式に始まったのだ。

立ち去るべきだ。劇は始まり、観客である私は存在してはならない。

しかし、私の足は床に釘付けにされたように動かない。痛みと罪悪感、そして恐ろしい好奇心が入り混じった感情に囚われ、この残酷なパフォーマンスを見続けることを強いられていた。

二人がカフェに入り、窓際の席に座るのが見えた。この距離では、彼らのやり取りはぼんやりと見えるが、具体的な内容は聞き取れない。

姉はスマートフォンを取り出し、熱心に彼に見せている。おそらく、一夜漬けで準備した「美術ポートフォリオのハイライト」か「最近の展覧会の写真」だろうと推測した。

三浦享真はスマホを受け取り、それに視線を落とすと、眉がほとんど気づかないほどに動いたように見えた。その表情は捉えどころがなく、どこか……困惑しているようにも?しかし彼はすぐに礼儀正しい態度を取り戻し、頷いた。

そして二人は話し始めた。水原真衣の表情全体は見えないが、過剰なほど頻繁な身振り手振りと、わずかに硬直した姿勢から、彼女が緊張し、記憶のバンクから必死に「要点」を引き出しているのがわかった。その動きは意図的で、不自然に見えた。

突然、激しい怒りと羞恥の波が私を襲った。

水原真衣に対してではない、自分自身に対してだ。なぜ私はここに隠れている?なぜ私は、自分の心の最も貴重な記憶と感情が、この計算ずくで偽善的な茶番によって汚されるのを見ているのだ?

前の人生で初めて三浦享真に会ったときのことを思い出した。あの時は姉の代わりに行き、不安と罪悪感に満ち、彼女のネット上の想い人にどう向き合えばいいかわからなかった。私たちは結局、ゴッホの『星月夜』について語り合った。私は彼に、あれは豪華な星空ではなく、奈落の底にいる孤独な魂の叫びに見えると話した。私たちは『ショーシャンクの空に』について議論した。最も感動させたのはアンディの知性ではなく、絶望的な状況でも希望を失わないその確固たる信念だと語った。

それらは、あの瞬間の私の最も偽りのない思いであり、感情だった。しかし、それらの会話は……魂の繋がりは……水原真衣のものであるべきだったのだ。

違う!この考えは危険すぎる!私は自分の腕を強くつねった。それらの会話や感情は、三浦享真を「貧乏な脚本家」と切り捨てた水原真衣のものでは断じてない!私が盗んだのだ!

この気づきは冷水を浴びせられたようで、一瞬にして私を現実に引き戻した。私は泥棒だ。ここにいて判断を下す権利などない。

ちょうどその時、分厚い本の束を抱えた書店の店員が私の横を通り過ぎた。一番上にあった重い美術書が突然滑り落ち、「ドンッ」という大きな音を立てて床に落ちた。舞い上がった埃にむせて、私は思わず後ずさった。

再び顔を上げたとき、心臓が止まりそうになった。

カフェの中の三浦享真が、なぜかこちらに顔を向けていた。彼の視線が通りを横切り、書店の方へ向けられている。

騒がしい通りと、書店の汚れた窓ガラス越しに、私たちの視線が一瞬、交わった。

その瞬間、周りの音がすべて消え去ったように感じた。

彼の表情は奇妙だった。純粋な探求心……というより、単なる好奇心を超えた何かに満ちていた。それはまるで、予期せぬ、しかし奇妙なほど見覚えのある何かを見たかのような、突然の戸惑い。

ありえない!彼が私を知っているはずがない!絶対にありえない!

パニックが私を襲った。私は火傷でもしたかのようにくるりと背を向けた。心臓が激しく脈打ち、喉から飛び出しそうだ。私は店の奥にある高い本棚の間に深く身を埋め、二度と外を見る勇気はなかった。

すぐにここを去らなければ。存在するべきではないこの観客を、彼が認識してしまう前に。

午後七時、スマホの画面が光った。

水原真衣からの写真だった。彼女と三浦享真が、とても親密そうに写る自撮り写真。彼女は満面の笑みで、彼の腕にしっかりと抱きついている。三浦享真も微笑んではいるが、礼儀正しく、なぜか私の目にはその笑みが儀礼的に見え、さらには……ほとんど気づかれないほどの、どこか一線を引いたような気配すら漂っているように思えた。

「礼音!面会はかなりうまくいったわ!彼はすごく紳士的。美術の話題でたくさん話した!」

私はスマホの画面の写真とメッセージを、十分間もじっと見つめていた。

二人は一緒になった。水原真衣は幸せそうだ。

これで十分だ。これが私の望んだことではなかったか?これが私の贖罪なのだ。

「あなたは姉に、彼女が望んだ『機会』を与えた。これが『正しい』道なんだ……」

私は洗面所の鏡に映る自分にそう繰り返したが、見つめ返してくる瞳は、自分自身さえも説得できない混乱と偽善に満ちていた。

なぜ、カフェでのあの瞬間、窓越しに交わしたあの探るような、戸惑ったような視線が、まだ心に焼き付いているのだろう?

彼は何を見ていたのだろう?

彼が……私に気づいたはずがない。

私はこれらの危険な考えを振り払うかのように激しく頭を振り、無理やり画板の前に座り直して筆を取った。

絵に集中しなければ。自分のことだけを考えなければ。

もう、考えてはいけない。

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