第160話

イヴェインは身を硬くしたが、もう遅かった。彼がすでに大股でこちらへ向かってきていた。

カシアンは彼女の真正面で立ち止まり、浅く頷いた。言葉はない。ただ、事を荒立てないための最低限の礼儀だけ。

「ここで何してるの?」私はきつく言った。「邪魔よ」

彼の笑みがひきつり、完全に消え去った。「イヴェイン――」

「と私はもう行くところだから。行きましょう、イヴェイン」

私たちは人混みを抜け、脇の廊下へと向かった。

その突き当たりに、白い格子戸の奥に隠れるようにして、狭いバルコニーがあった。

ここからだと音楽が遠くに聞こえる。

私は小声で尋ねた。「まだ彼を引きずってるの?」

イヴェインはか細い息を吐いた。「...

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