第248話

「心ここにあらず、といった様子だね」とファブリツィオが言った。「何かあったのかい?」

「え? ああ……いえ、何でもありません」私は首を横に振った。

「それとも、バール通りの魅力が失せてしまったかな。さっきストラヴィンスキーの噴水の横を通り過ぎたのに、君はちらりとも見なかった」

私はあたりを見回した。

本当に美しい場所だった。

パリとロマンスはほとんど同義語で、早春のこの街は馬鹿みたいにきれいだった。

通りに並ぶマロニエの木々は芽吹き始めたばかりで、クリーム色のファサードに柔らかな緑をこぼしている。

パン屋のドアの上では鮮やかな日除けがはためき、カフェのテーブルが歩道にあふれ出て、そよ風は花と焼...

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