第255話

「これ以上深く切ったら、指を失くすわよ」

「え?」と私は顔を上げた。

ファブリツィオが私の手袋をはめた手から、そっと精密刃を取り上げる。「集中してないね。刃物を扱うには危ない精神状態だ」

「ごめんなさい」私は手袋を脱いで立ち上がった。「ちょっと外の空気を吸ってくる」

「カフェ・ルフークに付き合ってよ。ノワゼットが飲みたくて死にそうなんだ。君もカフェインを摂ったほうがいい」

「いいわよ」

私たちは作業場を出た。心ここにあらずだったが、それでも何かがおかしいと感じた。

「みんなはどこ?」オープンフロアのオフィスはいつもより静かで、デスクの半分が空席だった。

「休暇中だよ」とファブリツィオは言った。...

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