第357話

はっと顔を上げて彼を見た。そうして今、ようやく彼の姿がはっきりと見えた。

アシュトンの顔が――いつもは落ち着き払った端正なその顔が、血で汚れていた。

喉から悲鳴が迸った。

ベッドの上で身を起こすと、シーツが体に絡みつき、背中は冷や汗でじっとり濡れていた。

ベッドのそばの何もない空間を見つめる。窓からは陽光が差し込み、部屋はエアコンの穏やかな運転音で満たされている。

血もなければ、アシュトンもいない。

ただの夢。激しく打つ心臓に手を当て、もう片方の手で額を拭う。

「奥様? 大丈夫でございますか?」ドアの向こうからメイドの声がして、続いて控えめなノックの音がした。

「ええ、大丈夫」なんとかそう答え...

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