第36話

ドミニクはミラベル・ヴァンスの姿が通りの向こうに消えるまで待ってから、ランドリーバッグを腕に提げたまま建物の中へ戻った。

受付で、レセプションの女性の一人に呼び止められた。

「ドム、さっきのって誰?」

何気ないふりをしていたが、彼女の顔には後悔がありありと浮かんでいるのが見て取れた。

先ほどはミラベルをただの何者でもない人物だと思っていたのが明らかで、今になってやり直したいのだろう。

「名前は教えてくれなかったわ。本当にうちのボスに会いに? どうしてアポなしなのかしら? 私てっきり――」

「質問はそこまでだ」ドミニクはほとんど足を止めずに言った。「次に彼女が現れたら、待たせるな。すぐに通せ。分...

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