第82話

最悪の夜だった。

冷たいシーツ。眠れない夜。

ただ私と、延々と空回りする思考だけがあった。

朝になると、ドアのそばに彼の靴があった。

つまり、彼は真夜中のどこかの時間に戻ってきて、でも今はもういないということ。

がっかりしなかったと言えば嘘になる。

でも、仕事が怒涛のように押し寄せてきて、それに没頭した。

それから数日間、私は「モス&フレイム」に籠りきりだった。一日十時間シフトで、宝石のセッティングやワックスの鋳型にかがみこんで過ごした。

家に帰る頃には疲れ果てていて、何かに気を使う気力も残っていない。ましてや、私たちの『リハーサル』なんてどうでもよかった。

アシュトンもどうやら忙しいらし...

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