第5章

美咲視点

それからの日々、私は完璧な女優になった。手の込んだ夕食を用意し、家を塵一つなく清潔に保ち、雅人の話にはただ頷いた。その裏で、私はあらゆる財務書類をコピーし、彼の怪しい行動を記録し、自立した生活の計画を立て始めていた。

「残業」だの「クライアントとの会合」だのという言い訳を並べ、非の打ちどころのないスーツに身を包んで出かけていく雅人を見るたび、吐き気にも似た嫌悪感がこみ上げてきた。もう彼の目を見ることができなかった。見れば、あの女――沙織のこと、そして病院の廊下で見た二人の親密な抱擁を思い出してしまうからだ。

『どうして私はこの男と十五年も一緒にいたんだろう? どうしてこ...

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