第102章

そこで彼女は手首を引っ込めると、ジリジリと後ずさりして彼との距離を取った。これ以上、神原文清のそばにいたら理性を保てなくなりそうで、渕上純は本気で恐れを抱いたのだ。

いや、理性を保てないというよりは、自分の取り乱した無様な姿を、神原文清に悟られるのを恐れたと言うべきか。

神原文清は立ち上がって救急箱を棚に戻すと、再び腰を下ろした。

「下に降りるのは少し待て。お前に話がある」

渕上純は動きを止めた。「話って?」

「俺の祖母の考え、お前も気づいただろう」

「はあ? 考えって?」

渕上純はきょとんとした。本当に何も気づいていなかったのだ。

神原文清は淡々と言った。

「祖母は、俺た...

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