第114章

小林海にとって、神原文清のその言葉に噓偽りがないことは分かっていた。彼はグラスを掲げ、二人は軽く触れ合わせた。

「だが、確かに渕上さんは独特な女性だ。男なら誰しも、渕上さんを見れば心を動かされるだろう。それは避けられないことだ。僕だってそうだったし、ただ自制しているに過ぎない」

小林海は素直に認めた。渕上純の美しさは際立っている。それは彼女だけが持つ固有の美であり、一目見ただけで人を虜にする、そんな類のものだった。

それを聞いても、神原文清は特に反応を示さなかった。男は男を理解する。漆黒の瞳には、酔いによる綻びが僅かに滲んでいた。

「なら、なぜあの時あんなことを言った?」

「あの時...

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