第70章

その言葉を聞いて、渕上純は少し驚いた様子を見せた。

「もったいないとは思わないの?」

斎藤俊は照れくさそうに笑う。

「ちっとも。元々コーヒーは好きだし、もし君が来なかったら、残りの一杯も自分で飲むつもりだったから。全然平気だよ」

彼女の瞳には静謐な色が漂っていたが、その奥底には深い憂いが淀んでいた。

自分は他人からの好意に値しない人間なのではないか——彼女はしばしばそう考える。誰かに優しくされるたび、心の中に強烈な罪悪感がこみ上げてくるのだ。

「ありがとう」

渕上純はコーヒーを受け取り、一口啜った。それは斎藤俊の気遣いに対する、彼女なりの答えでもあった。

斎藤俊は...

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