第88章

渕上純はそう答えたものの、小林海の胸中には依然として申し訳なさが燻っていた。神原文清と接触すること自体は構わないのだが、彼が懸念していたのは、風見紬が渕上純を見て、またしても言うべきではない言葉を浴びせるのではないか、ということだった。

まるで何かの合図があったかのように、渕上純と小林海が背を向けたその瞬間、神原文清の鋭い視線がふと動き、渕上純の背中に止まった。

男の動きが、見てわかるほど一瞬硬直した。だが、すぐに何事もなかったかのようにいつもの表情に戻る。

一方、風見紬は車椅子の神原お婆さんの傍らにしゃがみ込み、機嫌をとろうと必死だった。神原お婆さんは風見紬の熱意に対して反応が薄いの...

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