第98章

玄関に入ると、ちょうど神原文清が階下へ降りてくるところだった。今日の彼は黒い部屋着に身を包み、黒縁眼鏡をかけている。その姿は気だるげでありながら、抗いがたい色気が漂っていた。

その姿を見て、渕上純は思わず視線を奪われた。彼に未練があるわけではない。ただ、女性としての本能的な反応——いわゆる「目の保養」というやつだ。

彼女の記憶にある限り、神原文清は何を着ても様になる男だった。

たとえボロ布一枚を纏ったとしても、彼なら最先端のファッションに見せてしまうに違いない。

「来たか」

男の声は平坦だった。小林海と小林香理に一瞥をくれ、最後にその視線を渕上純に定めた。

その時すでに、渕上純は...

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