第5章

野々村家のリビングに足を踏み入れた途端、私はそこが異様な緊張感に包まれているのを肌で感じ取った。

両親は重々しくソファに腰掛け、その表情は石のように硬い。普段の慈愛に満ちた姿とはまるで別人だ。一方、野々村歩奈は俯き、大きな瞳に涙を溜めている。その姿は実に可憐で、誰しもが庇護欲を掻き立てられるだろう。

「お姉様、ごめんなさい。あのこと、本当にわざとじゃなかったの……」

歩奈は私を見るや否や、すぐさま立ち上がり、声を震わせながら謝罪してきた。

私は一瞬呆気に取られたが、すぐに状況を理解した。どうやら学校での一件が、両親の耳にまで届いたらしい。原作において、これは歩奈が仕掛けた新た...

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