第2章

前世では、彼は三分とかからずに「酔ってしまって、亜美に部屋まで運んでもらって休んでいただけだ」という言い訳をでっち上げた。あの時の私は泣きじゃくり、結局は彼の言葉を信じることにしたのだ。

今の私は、ただ静かにそこに立ち、彼の三文芝居を眺めていた。

「理奈、説明させてくれ――」やがて彼が口を開いたが、その声には焦りが滲んでいた。

「相手は亜美?」私は彼の言葉を遮った。

まるで他人のものみたいに、私の声はあまりに冷静だった。拓海は凍りつく。こんなに単刀直入な質問が来るとは思ってもみなかったのだろう。

彼は魚のように口をパクパクさせ、しばし言葉を探すように視線を泳がせた。やがて、こくりと小さく頷く。

それから彼の瞳が涙で潤んだ。

「間違いだったんだ」彼の声が震え始める。「酔っていて、自分が何をしてるのか分からなかったんだ……」

本物の涙が彼の頬を伝う。前世の私なら、今頃はもう絆されていただろう。

「もう終わりよ」私はそう言って婚約指輪を指から抜き、写真の隣に置いた。

ダイヤモンドの指輪がテーブルの上でくるりと一度回り、カチリと小さな音を立てて動きを止める。

拓海の顔が紙のように真っ白になった。

「理奈、頼む!」彼は私の手を掴もうと身を乗り出した。「愛してるんだ!彼女とは何でもない!」

私は一歩下がり、その手をかわす。そのせいで彼は手を伸ばしたままの格好で固まり、顔には傷ついたような表情が浮かんだ。

でも、それがすべて演技だと私には分かっていた。

「もし私のことが大事だったなら」私は彼の目をまっすぐに見つめた。「あんな女と寝たりしない。出ていって」

「理奈――」

「出ていってと言ったの」

私は窓の方を向き、彼に背を向けた。彼の嘘泣きも見たくないし、くだらない言い訳も聞きたくなかった。あの茶番は一度経験済みだ。もう二度とごめんだった。

背後で椅子が引かれる音がして、足音が続いた。拓海はドアの前で足を止める。

「後悔するぞ」彼の声は氷のように冷たくなっていた。「俺たちは完璧なカップルだったのに」

私は最後にもう一度だけ彼を振り返った。

「完璧だったことなんて一度もないわ、拓海。私がただ、見えないふりをしていただけ」

ドアがカチリと閉まる。その音は静まり返った事務所に響き渡った。遠ざかっていく彼の足音を聞き、やがて車のエンジンがかかる音がして、そして、すべてが静寂に包まれた。

私はソファに沈み込むように座り、何時間もそうしているように感じられるほど、指輪をじっと見つめていた。ダイヤモンドが光を捉えてきらめく。かつては、それが私の欲しかったすべてだったのに。

今では、ただの綺麗な石ころだ。

翌朝、私は結婚式の予定をすべてキャンセルし始めた。

花屋の小野さんは、電話の向こうで長いあいだ黙り込んでしまった。「あらまあ……理奈さん、本当にお気の毒に」

「いえ、大丈夫です」私は言った。「平気ですから」

電話を切った後、私は震える息を吐いた。これから式場、カメラマン、バンドにも電話をかけなければならない……。電話を一本かけるたびに、私のおとぎ話が終わったことを改めて告げているようなものだった。

一番辛かったのは、拓海のクリニックに彼のものを返しに行くことだった。

彼は、家族に伝わるというネックレスを私にくれた。彼の祖母のものだったそうだ。前世では、死ぬその日まで私はそれを身につけていた。今度の人生では、彼と私を繋ぐものは何もいらなかった。

受付にいたのは、以前会ったことのある若い看護師だった。彼女は私を見ると、一瞬驚いた顔をし、次に同情、そして隠しきれない好奇の色を浮かべた。

「拓海先生は今、いらっしゃいません」彼女はそう言ったが、その視線は私の手にあるジュエリーボックスに釘付けだった。「先生にお渡ししておきましょうか?」

「お願いします」私はカウンターの上にその箱を置いた。

私が背を向けて歩き出すと、後ろでひそひそ話が聞こえてきた。その音には聞き覚えがありすぎる。前世では、何ヶ月も私を苦しめた音だった。

クリニックの外は、中央通りが太陽の光に満ち溢れていた。この通りは何千回も歩いた道。どの店の店主も私の名前を知っている。

「理奈ちゃん!」

向かいの喫茶店から、藤本さんが心配そうな顔を貼り付けて飛び出してきた。彼女は父の旧友で、町一番のおしゃべりだ。

「あら、あなた……」彼女は声を潜めた。「拓海くんとのこと、聞いたわよ」

「平気です。ご心配ありがとうございます」私はなんとか笑顔を作った。

だが、噂はもう飛び交っていることだろう。今頃、岬ヶ丘町の至るところで、人々は振られた哀れな羽鳥理奈の話をしているに違いない。

少なくとも今回は、私は胸を張って別れを告げることができた。

家に帰ると、厄介事が待ち構えているのは分かっていた。

家の前には継母である早百合の車が停まっており、その隣には亜美の赤いオープンカー。二人はまるで何時間も前からそこにいたかのように、リビングに陣取っていた。

私を見るなり、早百合が飛び上がった。「理奈、今拓海くんからお父様に電話があって、あなたたち別れたって?」

その口調は、まるで私が何か犯罪でも犯したかのようだった。

亜美は胸元の開いたトップスを着てソファに丸まっており、その大きくて子鹿のような目は、何時間も泣き続けていたかのように赤く腫れ上がっていた。

「理奈」彼女はあの吐き気のするような甘ったるい声で言った。「どうしたの?あんなに幸せそうだったのに」

彼女は私の名前を呼ぶとき、いつもわざと声を甘くする。前世では、それは彼女が私のことを気にかけてくれている証拠だと思っていた。今では、その下に隠された毒が聞こえる。

私はまっすぐに亜美の目を見つめた。「何があったか、あなたがいちばんよく知ってるでしょ」

亜美は無垢な瞳をぱちりと瞬かせた。「何のことだかさっぱり分からないわ……」

「理奈!」

父が雷鳴のように怒りを帯びた顔をして階段の上に現れた。寝間着姿で、髪はあちこち跳ねている。このお説教のために、早百合がベッドから叩き起こしたのは明らかだった。

「拓海くんが言うには、お前が何か勘違いをしているらしいじゃないか」彼は階段を下りてくる。「お前たち若い者はいつも早とちりばかりして……」

このセリフも聞き覚えがあった。前世でも、彼は全く同じことを言い、その後一時間かけて拓海にもう一度チャンスをやるよう私を説得したのだ。

私は深呼吸した。「お父さん、拓海は浮気したの。亜美と」

早百合はまるで私が彼女を平手打ちでもしたかのように息を呑み、亜美の泣き声はさらに激しくなった。

「理奈、どうしてそんなひどいことが言えるの?」彼女は泣きわめいた。「私はずっと、あなたのことを本当のお姉ちゃんみたいに慕っていたのに!」

父は私と亜美を交互に見比べ、眉間のしわを深くした。彼が何を考えているかは手に取るように分かった。亜美は早百合との間にできた、生まれたときから甘やかされて育った、いつまでもお姫様で、彼の可愛い娘なのだ。

「理奈、何か証拠はあるのか?」彼は尋ねた。

その言葉は、息が詰まるほどの衝撃だった。

前回と同じ質問。誰も私を信じず、みんな亜美の味方をした。

だが、今回は、彼らの承認など必要なかった。

「浮気者のクズを捨てるのに、証拠なんていらないわ」私は平然と言った。「お先に失礼します」

私は二階へ向かった。彼らが私の「軽率な決断」やら「頑固な性格」やらを議論する声が後ろに残された。

翌日には、私の携帯電話が狂ったように鳴り響いた。

誰かが岬ヶ丘町のコミュニティのグループチャットに写真を投稿したのだ。拓海と亜美が『港のバー』でキスをしている写真だった。

画像は粗かったが、誰なのかははっきりと分かった。キャプションにはこう書かれていた。「これで本当のところが分かったってわけ?」

コメント欄は大荒れだった。

自業自得だと言う人もいれば、拓海をクズだと罵る人もいる。そして何人かは、拓海と亜美がいつからこそこそ付き合っていたのか、すでに賭けを始めていた。

私は携帯電話の電源を切り、コーヒーを淹れた。

外はまたしても素晴らしいお天気だった。次に何が来るかは分かっている。さらなる噂話、さらなる視線、私に同情するか、私を責めるか、どちらかの人々。

でも、もうどうでもよかった。どんなものが飛んできても、受けて立つ覚悟はできていた。

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