第8章
神崎圭也が私の手を引き、見慣れた街並みを抜けていく。
夕暮れの風が私たちの髪先を撫で、彼の足取りはしっかりとしていて、それでいて軽やかだった。
「ここだよ」
彼は古風な喫茶店の前で足を止め、看板には『古書と珈琲』と書かれていた。
「覚えてる?」
私は呆然とした。ここって、私が神崎増山と初めて出会った場所じゃない?
扉を開けると、カランと軽やかな鈴の音が響く。
店内の薄暗い照明が壁一面の古書を照らし出し、空気中には珈琲と紙の入り混じった匂いが漂っていた。
「どうしてここに?」
私は込み上げてくる思い出を必死に抑えながら、低い声で尋ねた。
「すべてはここから始ま...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
縮小
拡大
