第106章

夜の涼しさは水のごとし

渡辺翔太はバーの人混みを避けながら、カウンター席の方へと歩を進めた。

彼の後ろには田中炎が続いていた。

夜も更けたこの時間、二人は再び佐藤和也に呼び出されたのだ。

目的の場所にたどり着いた時、二人は酔いつぶれた佐藤和也を目にするものと思っていた。だが意外にも、彼はきちんとした身なりで、冴えた目をしてカウンターに座っていた。

しかも、彼の前に置かれたグラスには、一口も手をつけた形跡がなかった。

「どういうことだよ?飲みに来いって言ったんじゃないのか?」渡辺翔太は不思議そうに言った。

彼は前に歩み出て、佐藤和也に声をかけた。

「和也、どうし...

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